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浦和家庭裁判所 昭和45年(少ハ)3号 決定

少年 B・M(昭二五・九・二七生)

主文

少年B・Mを医療少年院に戻して収容する。

理由

一  本件申請理由の要旨は次のとおりである。

(一)  少年は、昭和四三年四月五日当裁判所において窃盗保護事件により医療少年院送致の決定を受け、関東医療少年院に収容されたが、昭和四四年七月二一日同少年院を仮退院し、現に浦和保護観察所の保護観察下にあるものである。

(二)  仮退院後の少年の行状は別紙一(本件申請書中「二、仮退院後の経過」の記載)のとおりである。

(三)  少年の右行状は犯罪者予防更生法三四条一、二、四号のほか、仮退院に際し同法三一条三項により関東地方更生保護委員会が定め、少年においてその遵守を誓約した事項のうち別紙二の各事項に違反するものである。

(四)  少年は精神分裂病の疑いがあつて、さきに医療少年院に送致されたものであるが、以上の行動傾向等にかんがみると、未だその性格偏倚は矯正されていないところ、家庭においては少年の監護に対する自信を失い、施設収容を希望している状況なので、保護観察によつては少年の更生はとうてい期待できない。

(五)  よつて、今後二年間少年を医療少年院に戻して収容するのが相当である。

二  本件保護事件記録ならびに少年調査記録、当審判廷における少年、保護者(実母)の供述を総合すると、右申請理由(一)ないし(三)の各事実が認められ、したがつて、少年は少年院仮退院中であるにもかかわらず、右仮退院期間中遵守すべき事項を遵守しなかつたことが明白である。

三  少年の処遇理由は、次のとおり付加するほか家庭裁判所調査官土方光子作成昭和四五年四月一七日付意見書の記載と同一なので、これを引用する。

少年を戻し収容すべき施設について検討するに、少年には精神分裂病ないしは精神病質の疑い(前者は仮退院時の関東医療少年院の、後者は浦和少年鑑別所の各判定)があるので、右診断を確定し、必要に応じ適切な医療措置等を講ずべきものと解されるので、医療少年院が相当である。

また、戻し収容の期間につき考えるに、右少年の精神的ないしは性格的欠陥を治療、矯正するためには相当長期間を要するではあろうが、さきに仮退院にあたり通院治療を指示されていたことからも推定されるように、現状においては、特に隔離施設に長期間収容して治療を継続すべき必要性も認められないので、この際は少年に明確な治療指針を与え、それに適応し得る生活習慣を身につけさせるをもつて足るものと考えられるので、右収容期間は一年間を相当と思料する。

もつとも、少年は二〇歳に達するまでに五か月余を残すのみの者であり、その収容期間については少年院法一一条一項但書の適用がある(戻し収容も、前処分の単なる継続または期間の延長ではなく、新たな処分と考える。)ものと解されるので、主文に右期間を掲記する必要はないものと思料する。

よつて、犯罪者予防更生法四三条一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 尾方滋)

別紙 一

1 少年は、仮退院してから、当初二日間ほど母のもとで休養し、昭和四四年七月二三日ごろから同月二七日ごろまでの間、帰住地に隣接して所在する○茂製作所において、プラスチック成型工として住込就労していたが、同月二八日ごろ保護観察を行なう者の許可を求めることなく無断で家出し、同年一二月二五日、表記住居(母)のもとへ帰宅するまでの間、その所在をくらまし、もつて、保護観察から離脱し

2 前記家出中の約五か月間、当初、東京都荒川区○○所在の簡易宿泊所などに止宿しながら約九日間徒遊し、昭和四四年八月六日ごろ、大阪市へ赴き、国鉄大阪駅前付近所在の洋酒喫茶店「○」へ、店頭広告を見て応募し、同日ごろから約半月間、同店ボーイとして住込就労したが、同月中旬ごろ、同市国鉄鶴橋駅付近所在の純喫茶店「○風」へ転職し、同店住込バーテンとして約半月間就労し、九月初旬ごろから、香川県観音寺市所在の洋酒喫茶店「○ーザ」住込バーテン約半月間、ついで、大阪府堺市所在の○川組土工約二か月間、さらに、茨木市所在の喫茶店「ロ○セ○」住込バーテンなど短期間に、いずれも、計画性のないまま頻々と職場をかえて、同じ職場で辛抱する努力をおこたり、また、大阪府、香川県内などを転々として、一定の住居に居住せず

3 昭和四四年一二月二五日、母のもとへ帰宅したが、厭世的気持から、同月二六日、自宅付近の鉄塔の下で、睡眠薬(名称・量不詳)を服用して、自殺をはかつたが、未遂に終り、精神状況を必配した継父、担当保護司らが同行して○田病院神経科へ受診に連れて行かれたが、すきを見て逃走し、受診を拒んで帰宅し、その後、「人の視線が気になつて働けない」など被害妄想らしい症状を訴えて、継父、実母、保護司らの就労への説示を無視して、徒食生活を続け、無断外泊をくり返すところから、昭和四五年一月二三日、再び、継父、担当保護司らに連行されて、前記○田病院へ入院し、翌二四日、宇○宮病院(宇都宮市)へ転院し、入院治療をうけるうち、同年二月○日、同院入院患者二名(氏名不詳)と共謀して、同院から、現金三万円を窃取して逃走するなど、精神障害に対する専門医による治療を自ら進んでうけることなく、これを忌避し

4 昭和四五年一月八日ごろ、継父から、アパートを借りる費用にあてるようにと手渡された現金四万円を所持して、家を出ながら、東京都北区王子所在の簡易旅館○原館などに止宿して、映画館出入りなどの遊興にふけり、前記四万円を浪費して、同月一七日ごろ帰宅し、さらに、同月一八日ごろ、就職のため大阪へ行くと称して、母から現金一万円を受けとりながら、大阪へ行かず、これを浪費し

5 昭和四四年八月○日(前記1記載の家出中)午前二時二〇分ごろから同日午前二時四〇分ごろまでの間、東京都荒川区○○○○×~○○~○平○荘内○海○次方に宿泊中、同人が外出したすきに、同人所有の現金一万二千円を窃取し

(本件について、昭和四五年三月六日、浦和家裁において不処分決定)

6 前記5記載の不処分決定にさいして、浦和家庭裁判所裁判官から、〈1〉邨井保護司のもとで機械工として住込就職すること〈2〉精神科専門医による治療をうけることの二点について、厳重に説諭され、同日、浦和保護観察所木藤保護観察官からも同様趣旨の説諭をされて帰宅したが、同月三一日、引致されるまでの間、勤労意欲の乏しいまま徒食生活を続け、再三、無断外泊をくり返し、母に小使銭をせびり、母の衣類を持出し(三月一八日)、これを五、〇〇〇円で入質して、遊興費に費消するなど、まつたく反省することなく放縦な生活を続け、継父、実母ら保護者の注意を聞き入れず、もつて、保護者の正当な監督に服さない。

別紙二

1 人の思惑を気にしないで、まじめに一生懸命仕事をすること。

2 転職せずに同じ職場で辛抱すること。

3 毎月必ず保護司を訪ねること。

4 競輪、競馬、競艇などの無駄使いをやめ、自分の将来にそなえて、手に職をつけること。

5 通院して、医師の指導に従うこと。

参考(昭和四五年四月一七日付家庭裁判所調査官土方光子作成の意見書)

昭和四五年少ハ第三号

戻し収容

申  請

保護事件に付き調査をとげ意見を申し述べます。

住所 川口市上○○町○の○○○○西○荘内

氏名 B・M

年齢 昭和二五年九月二七日生

右少年は左記事由により

少年院(医療もしくは中等)送致但し

必要とする収容期間は一年間とする。

を相当と思料致します。

鑑別結果通知・関東医療少年院に於ける処遇経過・診断書(電話聴取)及び少年・保護者(実母)・保護観察官との面接調査等から総合的に判断するに、

〈1〉 仮退院後の少年の行動歴から

非行、浪費、放浪、持出し等、現環境内での保護を困難にしている問題行動が伺える。

〈2〉 これを原因的に考えた場合

●少年が原因としてあげている職場における注察妄想などによる不適応

●家庭内での対人関係の葛藤

●保護司・保護観察官との敵対

●少年自身にも制御しきれない怠惰性など

あげられ、各点にそれぞれの経過があつたと考える。

〈3〉 しかし申請の現状にあつて一番問題とされることは、仮退院後の保護観察が軌道にのらず、少年もこれに乗ろうとする努力よりは、今や反発のみ見られ、必要な通院も実行されていないことである。家族の保護態勢はも早崩れ、少年が出てゆくしかない事態となつている。

ケース・ワーク機能のこれ以上の改善が期待出来ない事態とみなすので、少年の希望もあり、表記決定に有意性をみいだすものである。

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